ものをつくるということについて(1) -豆の実

 十歳になる娘が、2羽のうさぎを飼っている。ある日、うさぎの餌の中に一粒の大きめの豆のたねが入っていた。うさぎも食べ残したので、糞といっしょに畑のすみに捨てた。何日か経ったある日の朝、緑の芽がでているに気づいた娘が、驚いて私のところへ言ってきたので、小さな鉢に土を入れて植えることにした。どんどん大きくなり、高さ40センチぐらいになった時、白い花が咲いた。土の量が少なくてこのままでは貧相に思えたので、陽の当たる小庭の隅に直に植え替えることにしたら、蝶や蜂が飛んできてなんだか豆の花もうれしそうで喜んでいるようで、またどんどん背を伸ばし花の数も増えた。そして、ある日ふと豆の様子を見るとなんと実ができていた。
 私は、土で焼き物をつくる職業であるが、豆を見ていると変化する環境の中で、いろいろなものとの出逢いが豆を育てているのに気づいた。ものが存在するということは、多くのものから育てられていることなのかもしれないと深く感じた。つくるというとこは、自分が育てられていることに気づくことであるし、他を育てることではないだろうか。人間は、出会ったものから何かを学ばなければ成長できない存在なのかもしれない。
 初夏の小庭の隅、1本の豆の木の下で、娘のうさぎが根のところで穴を掘って遊んでいる。
1998年初夏



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