ものをつくるということについて(3)-胡瓜の葉

 ある夏の昼下がり、ろくろ場の窓から見える菜園に胡瓜の棚がある。その葉は陽に照らされて元気なく萎れていた。朝や空気中に湿り気がある日などは大きくシャンと広がって堂々としている。胡瓜は、その葉かげで青々と光りながらスクスクと育っていた。私は、時々その葉の数の多いことを感じていた。まわりを見渡して植物たちのなんて葉の多いことか。陽の光は葉の中で養分となり、眼には見えぬその流れは、茎を通りかわいい黄色い花の下のふくらみを大きくさせる。けなげに素直にまあ良く実る胡瓜は、光や水や空気、土そして育てた人の優しいかたち。不思議なかたち。やがて胡瓜の葉は枯れかけ勢いはなくなったが、ある夕立の雨の中、黄アゲハがじっと葉かげで雨宿りしていた。そして微かにゆれていた。
  今、棚はしまわれそこには大根の苗が植えられている。その小さい葉は凛と広がっていた。
  田は、こがね色に輝き、山のどてでは淡いピンク色の萩の花が揺れている。秋風のかたち。
 1999年初秋



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